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2012年2月26日 (日)

毛糸の帽子

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冬の外出時、ハッチングではなく毛糸の帽子をよく被っている。白と紺の横縞の帽子である。

何年かぶりで
バスに乗った のは先月のこと。毛糸の帽子とバスから、今は亡き作家・田中小実昌を思い出す。ゴジラの子であるミニラにも似た(私が勝手にそう思うのだが)田中は晩年、毛糸の半円形の帽子を被ってはよく都内を走るバスに乗った。バスの先頭のシートに座り、街を、人を、過ぎ行く冬の風景を眺めた。

独特の彼自身の口調そのもののような文章で田中は小説を書いた。今の小説のようにエンターテイメント性がなくともその語り口調と時代性で月刊誌に小説が載せられた時代。田中はあの風采とおぼつかない話し方でテレビにも顔を出していた。その田中が東大に入学し(もっともすぐ除籍になったらしいが)、チャンドラーの翻訳までしていたとは外見から人は判断できないものである。

晩年の生気を失いつつあるトロンとした目でコミさんこと田中は一日中バスの最前席に乗り、街の風景を眺めた。

凍てる夜、部屋の暖房を落とした就寝時に毛糸の帽子を被ることがある。そんな時に思うのだ。イナカーナを走るバスから見るのは雪の風景だけだが、冬の木枯らし、或いは陽だまりの下を走る街のバスに乗る機会があれば田中のように毛糸の帽子を被りたいと・・。


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