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2010年11月28日 (日)

ツリーハウス

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親戚に先の太平洋戦争前、満州へ渡り、嫁いだ伯母がいる。伯母は1枚の写真で結婚相手を決め、海を渡った。その後、数年でこの国は無条件降伏。途端にソ連軍が中国へ侵攻してきた。引き揚げる途中で伯母は一人息子を病気で亡くした。幼くして亡くなったその男の子はとても利発だったことだけは聞いたことがある。しかし、残念なことに伯母の満州での暮らしや引き揚げた時の様子を詳しく聞いた覚えがない。

『ツリーハウス』(角田光代著、2010年10月15日発行、文藝春秋刊)は三代に渡る家族の物語である。その1代目にあたる藤代泰造、ヤエ夫婦も命からがら満州から戻る船の中で長男を亡くす。夫婦はまさしく戦後を生き抜くために苦労して新宿近くに中華料理の店、翡翠飯店(ひすいはんてん)をはじめる。

昭和と平成に入ってからの、誰しも思い当たる事件が登場人物の周辺に出てくる。以前、桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』を読んだ時も感心したのだが、この『ツリーハウス』の作者である角田光代も物語への時代の取り入れ方がとてもうまい。小説の構想段階で人物、時代、事件の綿密な年表を作成したことだろう。

物語は1代目の泰造が亡くなったところから、はじまる。このブログではこれ以上、ストーリーに踏み込むことはしない。藤代家のどの登場人物もすべてフツウの人々である。私たち以上にフツウかも知れない。このフツウさがこんなにも読ませることが凄い。つまり、フツウという生活の裏に誰もがどれひとつ同じではない背景と価値を持ち得る。角田が言わせる人物たちの柔軟な科白と人物設定の巧みさにうなる。ガウーッ!

今年も多く本は読んでいないが、小説ではこの『ツリーハウス』をベストとしたい。

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