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2010年5月 6日 (木)

路地を進む

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生まれてから中学一年まで聡史は海坂と呼ばれる土地で育った。それ以降は父の転勤に伴い住所を何度も変え、転校も重ねた。転校した土地土地では言葉も変えた。しまいに東ノ都駅から電車で20分ほどの距離にあるかつて猟師町だった土地に住まいを持った。・・・そして、聡史は僅か一週間前、長い海外勤務を終えこの国に戻った。帰国前に送った100個を少し超えるダンボールも届かないうちに郷里を訪ね親戚の墓を参り、花を供え線香をあげた。海外だと親戚の不幸にも戻ることは難しかった。
帰りの飛行機まで時間の余裕ができ、思い立って少年時代過ごした町へ数十年ぶりに足を向けた。城跡から数町離れた複雑に路地の入り組んだ町。町名はやはり変更されていたが遠い記憶を頼りに路地を歩き、架かる小さな橋を手がかりに「確か・・この路地の突き当たりにも堰があった筈・・・」と歩みを進めた。大都市と異なりバブルや再開発の手が伸びることもなく路地は今も残っていた。しかし、ようやく検討をつけた自分が生まれ育った家と敷地跡はよくあることだが月並みな駐車場に変わっていた。それでも幸いなことに、すぐ近くにあったお屋敷跡はなにもない大きな空き地としてポッカリ残っており、子どもの聡史はこのお屋敷の栗の実を拾いによく忍び込んだことを思い出した。
夏を思わせるような暑さに額の汗を拭いた時、ふいに聡史のそばをすり抜け路地を走り去る半ズボンの子どもに出くわした。いまどき珍しい刈り上げ頭に見えた。手にした捕虫アミも一緒に弾んで走っていった。
・・・一瞬、どういうわけか周囲の音が消え、すぐに聡史は今しがた遭遇した子どもを追うように歩き出した。路地の先に新たな記憶のカケラが見え隠れし始めた。
「そういえば、今日は子どもの日だ」
焼き付けられた日光写真のようにもどかしい風景の中、再び路地を進んだ。それにしても暑い、子ども時代の夏のようだと聡史は思った。

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