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2008年8月 6日 (水)

うなぎ階段

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過日の土用にうなぎを食いそびれたフクミミ家は
たいへん珍しいことだが、とある鰻屋に出かけた。

夕刻、鰻屋に着く。店の門灯にはすでに火が灯り、
玄関への石畳には打ち水が涼やかである。
湊町(みなとまち)の老舗の鰻屋は江戸末期が創業とある。
予約していたが週末だったせいか一階は満員で、
私たちは二階の12畳の座敷に通され、床の間を背にした卓へ座る。
ふすまがとり払われた隣り座敷へ先客がふた組あった。
おりしも、座敷廊下の窓はおおきく開け放され、日没の光が差し込む。
窓からは湿気を含んだ夏の風も入り込んだ。
フクミミは早速、中ジョッキの生ビールを口に運ぶ。
冷えてうまそうだ。
運転手である私はいつも我慢である。
・・・待つ。
先客のうなぎもまだ来ていない、私たちのうなぎは今ごろ何処を旅しているのか。
ほうじ茶を飲み、メニューや店のしおりをフンフンと何度も見る。
現れない、・・・待つ。
座敷隣りの客の話がときおり聞こえ、私たちは話題も少なくなり寡黙になる。
やがて、待たされるのが嫌いなフクミミはまだかとうなりはじめ、
なぜか私がなだめる。
小一時間近く過ぎた頃、階段を上る足音が聞こえ
お膳を持った従業員が隣り座敷の障子戸を開けた。
先客ふた組の卓へうな重、香の物、肝水、卵焼き、冷酒が並べられる。
蓋が開けられた漆器から甘く香ばしいタレの匂いが
座敷の中空にひろがる。
次が私たちの番だ。

鰻屋の階段は途中に真四角な踊り場を挟み、直角に曲がり二階へ上がる。
階段横の白壁にはおおきな瓢箪形の窓が細工されている。
うなぎはこの階段を上ってやってくる。
そういえば、うなぎ屋のそばに引っ越してきた奴が
その匂いだけで飯を食う落語があった。
そんな気分で待つ。
やがて、食べ終えた隣りの客が満足した声を上げ、席を立つ。
座敷が私たちだけになり、ほうじ茶にも降参した頃、
トン、トン、トンと階段をうなぎがかけ上る音がした。
座敷の障子戸が開けられ、卓にうやうやしく漆の器が置かれる。
フクミミと私はうな丼、シェフはうな重である。
私は蓋を開けるまえに全体を俯瞰し、眺める。
おもむろに蓋を開け、うなぎの色つやを眼に納める。
そして、これまでの道のりに思いを馳せる。
気がつけば隣りに座るフクミミは山椒も振らず、
すでに半分を食べ終え、さらに爆走中である。
外は心地よい夜の闇に包まれている。

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